藤堂高虎
藤堂高虎とその家臣
藤堂作兵衛家
藤堂作兵衛家の初代は忠光です。忠光は高虎の母方の従兄弟で、高虎の叔母が忠光の父・箕浦忠秀の妻でした。
箕浦氏は、近江国箕浦庄に拠った国人で、高虎の出身地とは近いため縁戚関係を結んだものと思われます。
忠光は当初、織田信忠や寺西筑後守に仕えましたが、高虎が紀伊国粉河城主となったときにその家臣となります。以後、忠光は朝鮮役や関が原戦で戦功を挙げ、高虎から侍組を預けられて士大将となります。大坂の陣にも高虎の信頼する重臣として出陣の命を受け取りますが、惜しい哉、病に倒れ、慶長十九年十月死去しました。
忠光には兄と弟がいました。兄の箕浦大内蔵忠重は早くから明智光秀に仕え、本能寺の変に際しては寺内に突入して勇戦しますが、明智家の滅亡により流浪。後に豊臣秀長、秀保に仕え、大和中納言家断絶後は浅野長政に仕えています。末弟の箕浦少内家次は忠光と同じく高虎に仕えました。
忠光の死去後、嫡子・忠久が家督を継ぎ、大坂冬の陣に叔父・家次の補佐を受けて父の侍組を率いて従軍、翌年は新七郎良勝の相備として出陣しています。但し忠久は病弱であった模様で士大将の職を自ら辞しています。高虎は信頼する忠光の長男でもあり、何処にでも療養に行く様懇ろの扱いとしましたが、寛永六年若くして病死しました。
忠久の嫡子・忠季は未だ幼少で勤務には早かったため禄高は半減し五百石とされましたが、高虎はこの幼い後継者が心配だった様で、自らの娘と婚約させています。
さて上記の通り初代・忠光は高虎の従兄弟で信頼の厚い重臣でもあった訳ですが、阿諛追従とは無縁の人物であった様で時々高虎を困らせています。
あるとき高虎が忠光の屋敷に来て色々話をした後、上機嫌で
「何か要望があるなら聞いてやるぞ」
というと、忠光は、
「少々手元不如意なので八木を頂戴したい」
と答えました。
「なんだ米か、そんなもの幾らでも城から持っていけ」
と高虎が言うと、忠光は密かにほくそ笑んで、早速城の役人に急使を出します。
使者に持たせた書状には
「殿の仰せである。直ちに作兵衛屋敷まで米千俵を移送せよ」
と書いてありました。役人は驚き慌てて指示を飛ばし、作業員を集めて米俵を作兵衛屋敷の門前に運び大騒ぎでドカドカと積み上げます。
何も知らない高虎が帰城しようと作兵衛屋敷の門を出ると、大量に積み上がった米が前を塞ぎ役人が畏まって控えている有様。高虎は唖然としましたが、終いには笑い出し、
「また作兵衛の悪戯にやられたわい」
と一言。これは箕浦家の系譜にも記載されている話です。
また慶長年間、家中の落合左近が勤務上の失点から切腹を申し付けられた際、忠光は
「何、そんなことで切腹とは呆れた話だ。拙者に任せろ」
と左近を自邸に匿ってしまいます。話を聞いて激怒した高虎が自ら兵を率いて忠光の屋敷を囲み、
「左近を差し出せ!」
と要求しましたが、その頃にはとっくに忠光は左近を伴って逃亡していました。高虎は
「クソッ、作兵衛め!」
と地団駄を踏み、周囲の家臣に
「追え!」
と命令しますが、事情を聞いた藤堂新七郎良勝が駆けつけ
「主君として余りに軽々しい行いではありませんか」
と諌めたため高虎は苦虫を噛み潰して城に戻りました。
忠光は大和国月ヶ瀬辺りで暫く悠々と過ごし、ほとぼりが冷めた頃フラッと帰宅します。その頃には高虎も冷静になっており多忙なこともあって、特にお咎めもなく終わってしまいました。
箕浦豊後守 江州柏原住
義快────────┐
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│ 箕浦作兵衛 諱は忠高とも 室は藤堂良隆の娘
└忠秀───────┐
┌─────────┘
│ 箕浦新八、大内蔵
├忠重
│ 大和大納言秀長に仕え三千石を賜る 後浅野家に仕う
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│ 初代 藤堂作兵衛 室は村井左馬介成綱の娘
├忠光────────────────────────────┐
│ │
├女子 於六 │
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│ 箕浦少内(箕浦少内家初代) │
└家次 │
│
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┌──────────────────────────────┘
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├女子 藤堂孫八郎室
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│ 二代 藤堂与一郎 室は佐伯権之助惟定の娘
├忠久────────────────────────────┐
│ │
│ 箕浦九八郎 │
└某 │
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┌──────────────────────────────┘
│ 三代 藤堂作兵衛 隠居後六兵衛 室は高虎の娘
└忠季────────────────────────────┐
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┌──────────────────────────────┘
│ 四代 藤堂作兵衛
├光狎
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│ 箕浦作十郎 隠居後有無(箕浦作之丞家初代)
├忠辰
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├某 友田角左衛門
│
├某 安並久左衛門
│
├女子 加納藤左衛門室
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├女子 野崎新平正倫室
│
├女子 草野喜蔵重之室
│
├某 沢 隼人
│
├某 箕浦平三郎
│
└某 小森三平